2008年8月22日金曜日

individual freedom

マリエルと話した。たっぷり4時間は。
御年77歳。元教師の彼女はYMCAで英語を教える傍、ボランティアで自宅でチューターをしている。日本人の生徒を持つのは私で5人か6人目。

「秋には一人娘とアフリカに言ってくるわ。そこで誕生日を迎えるの。でいったん帰ってから今度はツアーでインドへ行くの。さすがに個人旅行はそろそろ辛いわね」

何度も言うが御年77歳である。過去にも中国、キューバ、東欧、北欧各国と旅した国は数えきれない。その華奢な体には想像もつかないようなエネルギーが満ちている。
「郊外へ行くぐらいなら私が運転してあげるわ。あなたは私の娘のようなものだから。私は夫は亡くしたけれども娘がいる。娘がいれば夫なんていらないのよ」
一緒に小旅行をする日も近いかもしれない。

何の準備もせずに自宅へ押しかけ、テキストはなくノートもとらない。たまに辞書を引きながら思いつくままひたすら話すだけ。私のたどたどしい英語に耳を傾け、時に意見を、時に励ましを、ユーモアたっぷりに彼女の経験談を絨毯のように広げてくれる。非常に知的な女性で、深い慈愛に満ちており、やはり祖母というよりは母。

会話のテーマは縦横無尽に変化し、互いの家族のことから、アメリカのドラッグの問題、教育問題、人種問題、貧困問題、ブラジャーのサイズから、ズボンの裾あげまで。そんな中ふと以前からの疑問をぶつけてみた。

「ハリウッドで子役で大成した人は必ずといっていいほどドラッグに溺れる。セレブリティや俳優たちがドラッグ中毒なのは皆知っている。なのにどうして彼らは逮捕されないの?どうしてそのまま表舞台に出ていられるの。日本なんて未成年者の喫煙写真が週刊誌に載っただけ、ボーイフレンドとの2ショット写真が表に出ただけでクビになる”アイドル”がいるのよ」

「それはね、まず子役たちは急に大金を手にするでしょう。そして大きなプレッシャーの元で生きている。お金があればなんでも手に入ってしまうのよ。そして金持ちは逮捕されない。逆に黒人や貧しい人だったら簡単に逮捕される。そういう社会なの」

そして、とひと呼吸おいて

「アメリカは”individual freedom”(個人の自由)という考え方が根底にあるのね。誰が何をしていようと、それはその人の問題。ドラッグに溺れようと、アルコール中毒になろうと個人の自由。周りは気にしない。でも日本は違うでしょう。あなたのご両親はきっとあなたの周りの家庭と同じような教育をしたにちがいないわ。まわりの社会に合わせようと。そういった違いを理解して、それから考えると分かってくるわよ」

すとんと胸に落ちる言葉だった。ただ個人主義、個人主義と言うが、家族、宗教、非営利組織といった「愛」でのつながりはこの国は実に深い。求めれば「救い」は「愛」という形で与えられる。与えられる前提だから「弱さ」にも寛容なのかもしれない。ただ「愛」では掬えず、こぼれ落ちてしまう者もいっぱいいる。希望のないまま産み落とされ、ドラッグの売人としての人生しか選択肢を知らない子供も。銃声の響く街で。

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