2013年11月20日水曜日

黄金の板は誰のもの?



クレジットカードよりも小さな黄金製の板の所有権をめぐって、ニューヨークで裁判が起きていました。

この黄金版は、中アッシリア王国のトゥクルティ・ニヌルタ1世時代、今から約3200年前に製造されたもの。表面に楔形文字とおぼしき模様が掘られています。ドイツの考古学チームが、現在のイラクのイシュタル寺院から1913年に発掘。1934年からベルリンの博物館に展示されていましたが、第一次世界大戦でナチス軍を倒したソビエト軍により略奪され、その後タバコ2箱と引き換えにライベン・フラメンバウムさんの手に渡ったそうです。

黄金板を手に入れたフラメンバウムさんは、アウシュビッツ強制収容所からの生還者。第二次世界大戦後、黄金版を大切に持って渡米し、ロングアイランドのグレートネック地区に居を構え、リカーショップを経営していました。

フラメンバウムさんは2003年に92歳で亡くなり、遺族が貸し金庫に隠されていた黄金版を発見。息子の1人が密告した(「おそらく報償がもらえると思って」と報道されています)ことにより、明るみに出て、ベルリンの美術館から返却しろと訴えられてしまいます。

そしてニューヨーク州上訴裁判所は14日、ドイツ・ベルリンにあるペルガモン博物館を本来の持ち主と断定し、返却を命じる判決を下しました。「spoils of war」(戦利品)という考えは通らないということです。

ただ、そもそもドイツの考古学者チームがイラクの地から持って帰ること自体、誰にも何の許可もとっていないことだったでしょうに、と私は思ってしまいます。大英博物館だって、メトロポリタン美術館だって、ただか二束三文で世界各国から運び出した盗品であふれているじゃないか、ということです。

そのものの所有権というのはいつから発生するのでしょう。

私はアウシュビッツの生還者のフラメンバウムさんが、死ぬまで大切に持っていたということの方にドラマを感じます。
タバコ2箱と引き換えに、「いいものを手に入れた」と感じたに違いありません。
この黄金版は、少なくとも彼が亡くなるまでは、彼のものであったということにしてあげたくなります。壮絶かつ凄惨な過去の代償として、ベルリンの天使がくれた贈り物だったということに、してあげたいなと心から思うのです。

2013年11月11日月曜日

ローカルの友はバーで探せ

「ジャージーシティーに引っ越してから友人ができないなあ。もっとローカルな友人を作りたい。そのためにはバーを開拓するのが一番さ。まだ土曜日の夜は長いよ。出掛けようぜ。ええっ1人で行けって?そんなの嫌だー。ウィーアーオールウェイズトゥギャザー!だってアイラブユーだもの」と夫がむちゃくちゃな主張を展開。病み上がりで全く乗り気がしなかったのだが、説得されシブシブ行くことに。

我が家を出て15~20分歩いたところに、そこそこ規模が大きく流行っていそうな、典型的なアイリッシュスポーツバーを発見。カレッジフットボールとナスカーの映像を同時に見ながら、不味いビールをちびちび(病み上がりだから、どんなビールでも不味い)。
小一時間たっても「ローカルな友人」はできそうにない。我々エスパニョールとハポネサのカップルはアメリカのスポーツに疎いので、サッカーのユーロカップや、イチローが登板したヤンキースの試合でも流れていない限り、アメリカ人と盛り上がるきっかけがないのだ。

諦めて会計を済ませて帰り支度をしていたとき、バーカウンターの向こうの方で「バカラオは塩漬けのタラのことだよ」と黒人のおっちゃんによく張る声で説明している南米系の若者を発見。バカラオはスペイン料理に欠かせない食材で夫もよく使う。(水に漬けて塩抜きしてコロッケの具にしたりする)これは話のきっかになりそうだ。

と、タバコを吸って戻ってきた夫に告げると、その足で若者のもとにつかつかと寄り、
「失礼、君、バカラオの話してた?」
「うん、してたけど」
と返事があったところで、それ以降は怒濤のスペイン語攻撃。相手もやや面食らったような顔をしつつも、流暢なスペイン語で返している。

ジョバンニという名のプエルトリカンの若者(育ちはアメリカ)は、ペルーレストランのメートル・ディーとのこと。このバーでガールフレンドが働いているからちょくちょく来るそうだ。一通りジョバンニと夫がスペイン語で盛り上がったのを見届けてから、わたしも近づき握手&自己紹介。すると、

「ああ、日本人なんだ。ボクの父親は サルサの歌手でね、日本には何回もツアーに行ったんだよ」
「お父さん名前何ていうの?」
「ヘルマン・オリヴェラ」(Herman Olivera)
サルサ音楽には疎い私だが、ネットで調べる限りかなり有名な歌手らしい。顔がジョバンニそっくりだ。

ジョバンニと仲良くなってきたので、彼の隣に席を移動して飲み直すことに。すると彼の飲み仲間が次々集まってきて、バーテンダーも突然愛想がよくなる。

夫:「ニュージャージーの郊外を高速道路で走ると、シカが立っていて危ないんだよね」
ジョバンニ;「ああ、あれめっちゃ危ないよ。もし運転中にシカが横切ろうとしてぶつかったら、絶対にブレーキ踏んじゃだめだよ。逆にアクセル踏んでシカをひくんだ。そうすればシカがフロントガラスを突き破らずに、勢い良く車の上に飛ばされて行くから」
夫:「アクセル踏むの?」
ジョバンニ:「そうだ、ブレーキは絶対にかけちゃだめだぜ。シカがガラスを突き破って入ってきて、大けがしちゃうからね」
バーテンダー:「シカっていえば、今日来るはずだったDJも高速でシカと衝突事故を起こしてこられなくなったんだ。見なよこの写真」(と携帯電話に送られてきた横転した血まみれの車の写真を見せる)

ジョバンニの友人が二人登場。1人は笑顔はいいのだが、ちょっとかわいそうになるくらい病的な肥満体型のはげ頭の中年男(仮にジャバズハット)。もう1人はアイリッシュ系の悲痛な面持ちで、腕から首までタトゥーだらけの男(仮に哀愁のドンキー)。ジャバズハットも哀愁のドンキーも子持ちのバツイチで、何とも言えないダメ男臭がただよう。寂しくて仕方がないなしく「君みたいにかわいい日本人の女性はいないの。紹介してよ」と迫ってくる。よせばいいのに夫が
「彼女にはフランス語の話せる妹がいるよ」と言ったものだから
「写真はないの?かわいい?フランス語もぼくしゃべれるよ」とアピールが過熱。ジャバズハットは当地の某大手日系企業で長いこと働いていたようで、たまに怪しげな日本語を混ぜてくる。哀愁のドンキーはフィリピン人の元妻とうまくいかなくなったいきさつを切々と語るが、どうやらアジア系の女性が好きらしい。
いやあ、わたしの大切な妹がジャバズハットやドンキーの妻となり、先妻との間にできた子供の面倒をみるという展開は、ちょっとないわなぁ…。と夫をにらみながら、彼らの自慢の子供たちの写真を見せてもらうなどして話題を変える。

お近づきのしるしに と、ショットグラスでウイスキーを何倍かおごってもらい飲んだ頃には、もう病み上がりだったことなんか忘れるほど出来上がってしまい、その後の記憶はあやふや。とにかくよく笑った。

我々以上に「ローカルな友人」を欲していたらしいジャバズハットが、親切に家まで車で送ってくれた。途中で「あっこいつ飲酒運転じゃん」と気づいたが、時既に遅し。店から家まで近かった上に、夜遅くて車が少なかったのであっさりと着いてしまう。ジャバズハットはビルの入り口で、物足らなそうにモジモジしていたが、初対面の男性をいくら夫が一緒といえ、家にあげるわけにはいかないので、にっこりと笑って「また遊ぼーね。今日は楽しかったわ。おやすみー」と追い返す。帰り道で事故に遭ったり警察に捕まったりしなかったのならいいんだけど。