2013年9月26日木曜日

チャイコフスキーはゲイだった!

そんなことは、クラシックファン、あるいは同性愛者の間では常識なのかもしれませんが、私は初耳でした。いやあ、びっくり。あの叙情的で繊細かつ流麗な楽曲の数々は、女心も分かる同性愛者ならではのセンスだったのかもしれませんね。

なぜそんなことをニューヨークで知ったのかといいますと、今月23日夜、マンハッタン区のリンカーンセンターで開催された、メトロポリタン歌劇場のロシア・オペラ公演が、ロシアの反同性愛法に抗議する集団により中断される騒ぎが起きたからです。

同日はオペラの初日のガラ公演で、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーゲン』が、ロシア出身のソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコの出演、マリインスキー劇場の芸術監督、ヴァレリー・ゲルギエフの指揮により上演されておりました。

上演開始後まもなく、観客席にいた、ロシアのプーチン大統領が6月に成立させた「同性愛宣伝禁止法」に反対する男から、「プーチン、ロシア人同性愛者との戦いを終わらせろ」「アンナ、あなたの沈黙はロシアのゲイを殺している」などの講義の叫び声が挙がり、物々しい雰囲気の中、舞台は中断を余儀なくされました。結局その男を含む4名が退場となり、その後上演は再開されたそうです。リンカーンセンターの周囲にも、ロシアの反同性愛法に反対する人が集まり、「サポート・ロシアン・ゲイ」書かれたレインボーフラッグを掲げ、抗議活動が行っていました。

同公演への抗議活動に火をつけたのは、同性愛者の作曲家、アンドリュー・ルディン氏。インターネットを通じて、同公演をロシア同性愛者の人権保護に捧げるよう訴え、9000名以上の嘆願書が集まっていたとのこと。『ニューヨークタイムズ』の記事をそのまま引用すると

The seeds for the protests on Monday night were planted when Andrew Rudin, a composer who is gay, started an online petition urging the Met to dedicate the performance to gay rights in Russia. The petition, which has been signed by more than 9,000 people, noted that Tchaikovsky, a gay Russian composer, was being performed by artists who supported a Russian government that had passed antigay laws.

「その嘆願書には、ロシア出身の同性愛者の作曲家であるチャイコフスキーの作品を、反同性愛者法を通過させたロシア政府を支持している音楽家らによって演奏されることが言及されていた」

ここまで読んで、「ええっ、チャイコフスキーはゲイだったの!!」と、槇原敬之が同性愛者だと知ったとき以来の衝撃(いやもっとすごかったかも)を受けたのです。

美人ソプラノ歌手で知られる(だいぶ貫禄も出てきましたが)、アンナ・ネトレプコは、2004年度ロシア国家賞を受賞。ゲルギエフもプーチンを支持しているとされます。こうした芸術と政治の関係の濃さや複雑さは、ロシアの歴史を考えると、根深く恐ろしいものを感じます。そういえば、帝政ロシア時代にはウラディミール・ホロヴィッツ、 ラフマニノフのように、亡命した音楽家も多かったですね。

アンナ・ネトレプコは、公演より1カ月以上前の8月 9日、自身のフェースブック上で
「一芸術家として、素晴らしい仲間たちとコラボレーションできることは、彼らの人種、民族性、宗教、あるいは性的指向に関係なく素晴らしい喜びです。わたしは今までも、そして今後も決して、人を差別することはありません」
と発言。この騒ぎが起こる前から、すでに何かかしら彼女に対する圧力があったことをにおわせていました。

個人的には、できれば芸術を鑑賞するときは、人種、民族性、宗教、あるいは性的指向といった俗世間から切り離された、そこに降臨する絶対的な神と己との対話、あるいは神からの許しの時間であってほしいと、私は願うのですが、現実はなかなかそうもいかないようです。だから逆に面白いと、思うしかないですよね。

2013年9月18日水曜日

銃を持つ男、パエリアを作る男

ワシントンDCで昨日、ネイビーヤード(海軍工廠)で銃撃事件が発生し、 容疑者の男を含む少なくとも12人が死亡。 最近こういった事件に「ああ、またか」と慣れてきてしまっているのが怖いです。

先週末の土曜日、タイムズスクエアでも発砲事件がありました。 薬物を使用し幻覚に苦しんで自殺を試み、車道をウロウロしていた男が、 取り押さえようとした警官に向かって銃を取り出すそぶりを見せ (実際には所持していませんでした)、それに対し警官2人が3発発砲。 男には当たらず、居合わせた女性2人を怪我させたのです。 いずれも命に別状はないようですが。

昨年、エンパイアステートビル付近でも、 元同僚をうらみ銃殺した男を取り抑えようとして、警察官が発砲。 男を射殺しただけでなく、通行人9人に怪我を負わせた事件もありました。

もちろん警官に対する非難の声は高まっています。 問題は状況を考えずにすぐに発射すること。さらにヘタ…。 打つなら1発で命中させてよって思ってしまいます。 そして人ごみではなるべく打たないようにするとか。 観光客で混みあう場所には極力行きたくないです。 流れ弾に当たって死亡なんてくわばらくわばら。

夫が勤めるニュージャージー州の化学会社には、「建物内でタバコを吸わない」といったルールが社内の壁に掲げられているそうですが、 その中に「銃を持ちこまない」という項目もあるそうです。 それを見た夫は最初、冗談かと思って笑ったそうですが、 同僚の中には、自宅に銃を持っていると自慢げに話す人もいるとのこと。 普段から所持していて、うっかり会社に持ち込む可能性もあるんだと知り、背筋が凍ったようです。

先日、自分に自信がない男性ほど、 俺はすごいんだぞと、何らかの方法でアピールしたがるのでは? という話を夫としていて、
「ほら、ムキムキに肉体を鍛える男とか、 銃を所持することでパワーを持ったと感違いする男とかいるよね」
と言ったところ、

「パエリアを作る男もいるよ」

と笑顔で返されました。

世界中の男性が、パエリアに限らずとも 料理を作ることに男らしさを感じてくれたらいいのにな、とちょっと思いました。
それだけで平和が訪れたりは、もちろんしないのですが、微かな希望として。