2008年11月10日月曜日

日本的社会の逆洗礼

例のASN(米国腎臓学会)の派生的な会議兼意見交換パーティーのお手伝いのお仕事を先日してまいりました。製薬会社さんが主催となって日本人のドクターたちを接待するのが主な目的。私の仕事は受付や会場でのご案内、立食パーティー会場でのアシスト、お帰りのお車の手配等。いやあ、久々に日本社会の洗礼を受けましたね。

まずは代理店の社長直々のスタッフへのご挨拶。
「我々の会社のモットーは『気配り、目配り、サービス業です』。規模は小さくとも日本一のサービスを提供していると自負しております」
ううううっ、久々に聞いたぞ!気配り、目配り。そして大切なのは「笑顔」。日本のサービス業ってそうだったわと身の引き締まる思い。私も転職が多く、サービス業も経験したことがあるので、脳の中にしまっておいたタンスの扉を開けてぱんぱんと埃を払って、にっこり。できた!そうそうこの微笑みよ。アメリがでガハガハ口を開けて笑ってるから、ちょっと錆び付いたかと思っていたわ。

そして姿勢正しく立ち、指先まで神経を行き届かせ、お話をうかがう時は軽く頷きながら真摯な瞳でお顔を拝見。決して相手の目を穴のあくほど見つめてはいけない。だって偉い先生方ですもの。高いサービスは受けて当然と思っていらっしゃるわ。

そして先生方のご到着。50人もいらっしゃれば大満足と思っていたのに、なんと100人以上お越しになり代理店の皆さんもピリピリムードに。会場に急遽追加で椅子を入れたり、立食パーティーでのお食事を追加したり目が回るほどの忙しさ。

そして悲しい!と思ってしまうのが、きっと自分も日本では同じように振る舞っていた「軽く無視する」人々。悪気はないのです。よく分かっています。でも何かをして差し上げたら目を見て笑顔で「Thank you」が当たり前のアメリカにいると、壁を見るかのような目で「ああ分かった」と言う風に顎を少し動かしてそのまま素通りされてしまうとショックなんですよねえ。これが。

もちろん中には丁寧にお礼を言って下さる方や、雑談にいらっしゃる方もいらして、そんな時は本当に嬉しかったです。日本語で会話する事自体少ないですからね。

名簿を見ながら出席者のチェック。北は北海道から南は九州まで、本当に色んな場所からここフィラデルフィアに集結されたんだなあと不思議な感動に包まれました。

全てのお客様がお帰りになられて、余った寿司をつまみながら一息。先ほどの社長。さすが「気配り」がモットーだけあって、我々現地日本人スタッフのためにとらやの一口サイズの羊羹と、美味しい日本茶の差し入れも持ってきて下さっていました。美味しい。さすが日本のお菓子はデリケートで奥が深いなあ。とふと谷崎潤一郎の『陰翳礼讃 』のくだりを思い出しました。

「だがその羊羹の色合いも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへと沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑かなものを口中へふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くはない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う」

そんな耽美的な世界観を愛してやまなかった時期もあるのに、いま私にその繊細さは残っているのかしら。アメリカナイズされた雑な人間になってしまっていないかしら。

とまあ、色々と逆カルチャーショックを感じた日でございました。

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