2009年3月23日月曜日

フィラデルフィア偉人伝② 人形師、山本保次郎



1907年から1927年の20年もの長期に渡りフィラデルフィアに滞在し、今はなき「フィラデルフィア商業博物館」に勤務した人形師がいた。山本保次郎(1865-1941)。明治から昭和初期の三代にわたって、皇族や財界人らに愛された人形師「永徳斎」(えいとくさい)一族の第三代目となった人物だ。

彼は1904年、セントルイス万国博覧会にて日本の茶業組合の展示コーナーの陳列装飾担当者として39歳にして来米。間口二間、奥行二間の御殿風の部屋の中に、茶の湯の式に望む等身大の美人人形二体を配するという大掛かりなものであった。この万博会場で、のちにフィラデルフィア商業博物館の設立者となる、ペンシルベニア大学生物学教授ウィルソン博士と出会ったと思われる。

万博終了後、一旦は帰国したものの1907年に再来米。フィラデルフィア商業博物館の展示用生人形や模型の製作に従事した。まだCGによる解説や、展示用ロボットがなかった時代、ジオラマや人形モデルを利用した展示は今以上に効果的であったであろう。詳細につくられた等身大人形で世界諸国の生産労働や風俗を表現。

彼のフィラデルフィア滞在中の作品は、テンプル大学に小型のものが3体残っているだけで、その足跡は謎に包まれたままある。しかしそれらの作品から、彼が伝統的な愛玩用の日本人形の枠を超えて、より写実性を追求し、大胆な表現形態を模索したことが見て取れる。帰国の翌年、二代目であった兄が亡くなり、保次郎は三代永徳斎を継ぐのである。


※これは「週刊NY生活」NO.246、『フィラデルフィア偉人伝』シリーズに筆者が寄稿した原稿の転載になります

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