初めてニューヨークを訪れたのは2003年。一週間の夏休みを利用しての観光旅行だった。自由の女神、MOMA、エンパイアステイトビル、セントラルパーク等を巡り、今宵はブロードウェイでミュージカル、とうきうきしていたら、例の東海岸からカナダまでを襲った大停電にやられた。信号も、地下鉄も、エレベーターも電気系統は全てダウン。街は真っ暗に。テロとの噂に震え上がり、全く通じない英語に焦りを感じ、キャンドルの光で夜を過ごし、予定より一日遅れて、ANAの臨時便でなんとか帰国。
旅の途中、ソーホーへも足を運んだ。軒を連ねる斬新なデザインのブティックに気圧され、入るのも戸惑いウィンドーショッピングをしていた時、一軒のジュエリーショップに吸い込まれるように足を踏み入れた。ディープパープルのアメジストが埋め込まれた、少しごつめの指輪に一目惚れをして購入。以後、右手の中指に毎日つけている。そのころから痩せたせいか、緩くなりグラグラしているが、お守りのようにつけている。
この週末、日本から友人が遊びに来た。いや正確に言うと「日本で知り合った友達が行くからニューヨークを案内してあげて」と、アメリカ人の友人に言われ会うことになった女性。彼女が滞在したホステルの前で会ったのが初対面。すぐに打ち解け、この2日間みっちり共に過ごした。アメリカは初めてという彼女だが、ニュージーランドとオーストラリアに留学経験があり英語は問題なし。海外旅行も慣れていて、逆にガイドを片手に私を引っ張って行ってくれたほど。9月からニューヨークで仕事を始めたものの、遊ぶ暇が全くなかった私にとって、2回目の観光となった。
57番通りの「ジョーズ上海」で小龍包に舌鼓を打った後、グラウンドゼロまでひたすら歩いた。互いの人生、仕事、悩みまで全て話し尽くしたころ、ソーホーにたどり着いた。そしてあのジュエリーショップを見つけたのである。記憶が堰を切ったように溢れ出す。全てがあの日のままだった。店員に「6年前にここで購入したのよ」と指輪を見せると、大喜び。石は違ったが、同じデザインの指輪をまだ扱っていた。指輪が私を再びニューヨークに呼び寄せてくれたのだと、思った。
彼女は十字をかたどった繊細な淡い緑のネックレスに心を奪われた。こんな高額なジュエリーなんか買ったことがないわと、そわそわしながら、狂おしいまでに見開いた瞳は真剣そのもの。美しかった。宝石を選ぶ瞬間の女性はこんなに美しいのかと、同性ながら惚れそうになった。白い肌をバックに石はケースの中より輝きを増し、鏡の中の瞳には決意がみなぎる。
「買うわ。着けた瞬間にものすごいパワーを感じたの」
深夜のフライトで帰国する彼女と、ハグをして別れたのは午後9時。「楽しかった。また来たいなあ」とつぶやく彼女。胸で十字がウインクしていた。大丈夫。きっと彼女もまたこの地に来ることになる。石が呼び寄せてくれるはずだもの。
0 件のコメント:
コメントを投稿