2008年9月9日火曜日

英語→日本語の苦悩


ジャパニーズガールズロックバンド『THEE 50'S HIGH TEENS 』がニューアルバム『PUNCH DE BEAT』を引っさげ、この金曜日にフィラデルフィアでライブ&ラジオ出演をする。ラジオのインタビューで通訳をすることになった友人から質問文を「自然な」日本語にして欲しいと頼まれ、初めてそのバンドの存在を知った。

大学で日本文学を専攻し、奈良県で2年間過ごし、最近の愛読書は村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』(もちろん原書で読んでいる)という彼の日本語能力は素晴らしいのだが、やはりこう仕事で使うとなると色々と問題があるのが分かってきた。いや「問題」というのは心ない言い方で、英語と日本語の相違点が改めて浮き彫りになったと言うほうがフェアかもしれない。


其の一:カタカナで表記される外来語の多さよ!

「アルバム」「リリース」「ライブ」「ボーカリスト」「ギタリスト」「ベーシスト」「ドラマー」「メンバー」「フューチャー」「コスチューム」「テイスト」「リミックス」「パフォーマンス」「ステージ」

ロックバンドへのインタビューなので外来語が多いのは仕方がないのが、こういったものを逆に正しい(?)日本語にしようとすると、よけいにワケが分からなくなってしまう。ちょっと極端な例だが

「日本出身の女性だけの洋楽合奏団の構成員は、吸血鬼の衣装で演奏をします」
だとピンと来ないが
「ジャパニーズガールズロックバンドのメンバーは、ドラキュラのコスチュームでパフォーマンスをします」
だと分かったような気になるし、その光景も想像しやすい。日本文学をこよなく愛する彼をがっかりさせながら、カタカナだらけに正してしまった。



其の二:英語は「時制」を厳密に表現するが、日本語はあやふやである

「バンドに入った前はなにをしましたか?」
彼に限らず日本語を勉強するアメリカ人はよくこのように言ってしまう。英語で書くと
「What did you do before you became a member of the band? 」
となるから直訳すれば確かにそうなるのだが、実際私たちはそうは言わない。
「バンドに入る前はなにをしていましたか?」
が通じる日本語だろう。逆に日本語の頭で英語にしてしまうと時制や三人称の"s"を忘れる羽目に。私も会話がエスカレートすると、未だにすっ飛ばしてしまう。



其の三:文脈を知らないと会話にならない…

「そのコスチュームはBéla Lugosi(ベラ・ルゴシ) を意識しているのですか?それとも一般的なドラキュラですか?」
「Béla Lugosi ってなによ?」
「知らないんですか?ドラキュラ映画と言えばBéla Lugosi 。ホリウッドの有名な俳優ですよ」
「知りませんねえ。ちなみにハリウッドね。『ホ』じゃなくて『ハ』」
「はい、ハリウッド。本当に知りませんか?アメリカ人はみんな知っていますよ」
「本当に?でもさ、このバンドのメンバーって20代前半なんでしょう?知らないと思うよ。念のために最初に『Béla Lugosiって知っていますか?』と確認してから話した方がいいね。Yesだったらそのまま会話を続けて、Noだったら…」
「え〜!知らないんですか〜??」
「いやいや、それはちょっと感じが悪いでしょう」
「そうですか?」
「そうよ。そんなリアクションはダメよ。相手が引くかも。『アメリカではとっても有名な俳優なんですよ。彼に似ているあなたたちは、アメリカで人気が出ると思いますよ』と加えてっと」
「そこまで言わなくてもいいんじゃないですか?」

とまあ大変だった。家に帰って調べたところBéla Lugosiは映画『ドラキュラ』(1931年)で主役を射止めたハンガリー出身の俳優。映画がヒットし、その後も怪奇スターとして出番があったものの、ハンガリー訛の強い英語が災いして徐々に落ち目になっていったとのこと。

もともとホラー映画は苦手だし、1931年の映画でしょう。1931年って高倉健やジェームス・ディーンが産まれた年だよ。知っている訳がない!と開き直ったものの、やはり何かの代名詞になっているような人や物は押さえておかないと会話にならないのだと痛感。

ラジオのインタビューは生放送ではなく収録。後でおいしい所取りをして編集して流すそうで、どうりで質問項目が異常に多かった訳だ。Good luck!!

Béla Lugosi、うーん確かに一回見たら忘れられない容貌…。

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