2009年8月10日月曜日

ストリートファイト

夜の街をつんざく罵声と金切り声が聞こえたと思った瞬間、ツレが止まった。
「ケンカだ。道を変えよう」
100mほど先の路上で5、6人の黒人の集団が殴り合いながら車道に飛び出してきた。けたたましいクラクションを鳴らしながら、車が避けていく。日曜日の夜。9時過ぎのスプリングガーデンストリート。そのまままっすぐブロードストリートとの交差点に出たかったのだが、踵を返し回り道をしてセンターシティに出る事にした。

「ああいう光景を見たら避けないとダメだよ。ギャングが加勢していつ銃で撃ち合いになるか分からないし、そのまま流れ弾にあって死ぬ可能性だってあるんだから」

センターシティから少し北に外れたこの地域は普段から退廃した雰囲気が漂い、廃屋とゴミと雑草だらけの歩道から、不気味なほどの静けさが冷たい恐怖となり背中を上ってくることはあるのだが、命の危険までも感じた事はなかった。

数ブロック南下し、横道からブロードストリートに出たところ、先ほどのグループが、こちらを目がけて走ってくるではないか。逃げる男、追う男。それをまた追う集団。慌てて車道を横切り反対側について振り返ると、追いつかれた男が地面に引きずり倒され、激しく殴打を受けていた。拳が顔や身体にめり込むドゥフッ、グフッという鈍い音と、組んず解れつのたうち回る二つの黒い肉体。足早に去りつつも、眼をそらす事ができない。

昨夜はフィラデルフィアのワコービアセンターで開催された総合格闘技UFC(Ultimate Fighting Championship)の試合を、友人たちとインターネットテレビで見ていた。熱狂するオトコどもを余所に、現ミドル級王者アンデウソン・シウバがガードを下げ、対戦相手のフォーレスト・グリフィンを散々小馬鹿にしたあげく、計算され尽くしたパンチで顎を捉え、1回KO勝ちしたところで眠りに落ちてしまった私。興行と知って見る殴り合いは例え世界王者であろうと何であろうと全く身が入らないのに、初めて見るストリートファイトは、その生々しさに背筋が凍りつき、しばらく声も出なかった。

巻き込まれることもなく、ケンカの終焉を見る前に射程圏内から逃げ切ることができたが、それでもしばらく極度の緊張と恐怖から解放されるまでは時間がかかった。

そう、いつでも撃たれる可能性があるということを意識の奥底にしまっておかないといけないのだ。きっとここだけでなく、世界中のどこででも。

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