2008年7月18日金曜日

失われた名画







ボストン美術館のすぐ側にボストンの大富豪の未亡人、イザベラ・スチュワート・ガードナーの美術館があります。ボストン旅行の際、当初は計画に入っていなかったのですが、ハーバード大学に勤める友人から「2時間もあれば回れるから是非行ってきなよ」と勧められ足を運んできました。

イザベラ・スチュワート・ガードナー(Isabella Stewart Gardner/1840-1924)はニューヨーク生まれ。1960年にジョン・ローウェル・ジャック・ガードナー( John Lowell "Jack" Gardner)と結婚しボストンへ。この夫の父親がスマトラからのコショウの輸入で財産を築いた大富豪。1844年に亡くなったときアメリカで最も裕福な人物の1人だったといいますから、その金持ちぶりは想像を絶します。

イザベラとその夫は世界各国を旅し、その優れた鑑識眼で絵画、彫刻、版画、調度品など総計2500点以上ものコレクションを収集。ブレーンとしてイタリアルネッサンス芸術の専門家で目利きとして有名なバーナード・ベレンソン(Bernard Berenson/1865-1959)もついていました。

1898年に夫を亡くしたイザベラは、その膨大な個人コレクションを収容する美術館兼邸宅フェンウェイコート(Fenway Court)を建てます。4階建てのその建物はルネッサンス期のヴェニスの宮殿をモデルにデザインされました。中央にガラス張りのドーム状の天井がついた中庭を取り囲むように3階までが美術館。4階は彼女の個人宅で今は事務所となっています。

イエロールーム、オランダルームなどと名付けられた比較的こじんまりとした部屋に壁を覆うようにびっしりと展示された絵画たち。彫刻や調度品も廊下や階段にすぐ触れる距離で展示されています。岡倉天心の後援者だったこともあり、掛け軸や屏風絵もありました。

建物内部の撮影が禁止されているため、作品はネットで見つけてきたものになりますが、3階のティツィアーノルームに飾られた傑作「エウロぺ」(Europa)などは美術史のテキストでお馴染みですね。 余談ですが「ヨーロッパ」の語源となったこのエウロぺのギリシャ神話。レバノンの南西部、地中海に面する都市テュロスのお姫様だったエウロペの美しさに一目惚れした絶倫神ゼウスが、白い牛に化けて戯れるフリをして誘拐しクレーター島まで連れ去り我がものにした。その時にかけ回った地域がヨーロッパとなったというお話です。

話はそれましたが、このイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館は美術史史上最大の悪夢が襲った場所でもあります。1990年3月18日の夜、ボストン市警に扮した強盗団が美術館に押し入り警備員を縛り上げ、フェルメールの「合奏」、レンブラントの「ガラリヤの海の嵐」、ドガ、マネの作品など計13点を強奪の上、逃走。事件は未解決のままFBIは懸賞金をかけて捜査中。

消えた絵画があった場所には持ち主のいない空っぽの額だけが寂しく飾られていました。いったいこれらの絵画はどこへいってしまったのでしょう?闇のマーケットで売買され、イザベラと劣らぬ大富豪がワインを片手にその芸術美を1人楽しんでいるのでしょうか?怪盗ルパン張りのお手並みに感心ばかりもしていられません。是非返していただきたいものです。特にフェルメール。

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